コラム

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2018/04/27

Nr.50 Im wunderschönen Monat Mai

富山 典彦(成城大学教授・独検実行委員)


戦後生まれで「戦争を知らない子供たち」の世代だったぼくにとって,5月1日は「メーデー」,つまり労働者が労働条件の改善を求めて,旗などを立てながらデモをする日でした。つまり労働者にとってメーデーは大事な「休日」だったのです。それに,4月29日が昭和天皇の誕生日で「天皇誕生日」,5月3日が「憲法記念日」,そして5月5日が「こどもの日」と国民の祝日が続いていましたから,まさにゴールデンウィークと呼ぶにふさわしい一週間でした。

ぼくの子供の頃は曜日の関係で「飛び石連休」になることが多かったゴールデンウィークですが,いつの間にか5月4日も休みになり,4連休や5連休になることも珍しくなくなりました。おまけに一般の企業では土曜日も休みになることが多く,うまく有給休暇を活用すれば,かなり長期の休みも可能になっています。

大学でも,時間割によってはまるまる1週間は授業が休みになることもあったゴールデンウィークでしたが,授業回数を確保するために国民の祝日はたいてい授業日になってしまい,連休は5月3日・4日・5日だけとなり,これさえ授業日になってしまいそうな危機にさらされています。

さてメーデー,ドイツ語でいうと Maitag が資本主義社会において労働者のデモンストレーションの日になったのは,もともとこの日に民族衣装を着た人たちによるお祭り,五月祭 Maifest が行われていたからです。女性の民族衣装は Dirndl,男性のそれは Lederhose といいます。民族衣装は今ではドイツ土産のひとつにもなっていますし,五月祭の時に着ている民族衣装はいわゆる晴れ着なのでしょうが,もともとは村で働く人たちの作業着だったのです。そういう意味で5月1日は,昔から労働者のお祭りの日だったということになります。

Maitag には村の広場に Maibaum と呼ばれる柱を立てます。この柱の天辺から,何本もの紐がぶらさがっています。この紐を,民族衣装に身を包んだ人たちが手に持って,柱の周りを回りながら歌っり踊ったりするのです。残念ながら,ぼくはまだこの Maifest の実物を見たことはないのですが,DVDなどで見る限り,みんなこのお祭りを楽しんでいるように見えます。

ぼくがウィーンに住んでいたとき,復活祭 Ostern を過ぎた4月に雪が降ることもありましたが,5月になるとさすがにもう雪は降りません。ですから Maitag こそが,秋の収穫祭に向けて仕事に励む日々の始まりなのです。ちょうどこの頃には樹々の花が咲き乱れ,小鳥がカップルの相手を求めてさえずります。

ハインリヒ・ハイネ Heinrich Heine(1797-1856)の詩,「素晴らしく美しい五月に」Im wunderschönen Monat Mai はまさにその春の景色を見事に歌い上げています。

Im wunderschönen Monat Mai,
Als alle Knospen sprangen,
Da ist in meinem Herzen
Die Liebe aufgegangen.

Im wunderschönen Monat Mai,
Als alle Vögel sangen,
Da hab ich ihr gestanden
Mein Sehnen und Verlangen.

ローベルト・シューマン Robert Schumann(1810-1856)の歌曲集『詩人の恋』Dichterliebe の歌曲はすべてハイネの詩に曲をつけたものですが,この歌曲集の最初の歌がこの「素晴らしく美しい五月に」です。5月になると,すべての花のつぼみが開き,小鳥たちが愛の歌をさえずるのですが,まさにそのときに,詩人の心にも愛が芽生え,その愛を「彼女」に告白した,ということです。

シューマンの曲で歌ってもいいですが,音楽をつけずにハイネの詩だけを朗読するのもいいですね。美しくも切ないドイツリートが,ぼくにドイツ語の世界への扉を開いてくれたように,皆さんも是非,ドイツリートをドイツ語の勉強の片隅に置いてみてください。

この詩の解釈については,また別の機会にしてみたいと思いますが,「ネタバレ」をやっておきますと,これは実は失恋の詩なのです。こんな輝かしい景色を歌った詩がなぜ失恋の詩なのか,また,この詩のどこからそのことが読み取れるのか,それは宿題ということにしておきましょう。