コラム

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2007/02/15

Nr.14 メルケルとシュトイバー

神品 芳夫 (元明治大学教授・元独検担当理事)


ドイツ連邦共和国の保守系の大政党 CDU-CSU (キリスト教民主・社会同盟)は二つの政党の連合だが,国政レベルではほとんど一つの党として活動している。したがて CDU 一本にして, CSU は CDU のバイエルン支部でもよさそうなものだが,しかしバイエルン人は独立心が強く,別個の党組織をもたなければ気がすまない。本体の CDU は,CSU の独立組織を認める一方,主役はもっぱら CDU の方で引き受けることでバランスを保ってきた。保守長期政権のときの連邦首相 (Bundes- kanzler) は,アーデナウアーもコールも当然のように CDU だった。

ところが,CDU の党首がアンゲラ・メルケル (Angela Merkel) ,CSU の党首がエトムント・シュトイバー (Edmund Stoiber) となってから,このバランスが微妙に揺らいだ。メルケルは旧東ドイツ出身の女性で,若くて未知数,それに対してシュトイバーは老練の政治家で,バイエルンを越えて信頼度も高い。2002年の総選挙のときに,連邦首相候補が CSU から出てなぜ悪いという話になり,両者合意のもとでシュトイバーがはじめて CDU-CSU の連邦首相候補となって現職のシュレーダーと戦ったが,僅差で敗れた。

ここからシュトイバーの落ち目が始まる。2005年の総選挙では,その間に党首として実績を上げたメルケルが,当然のことのように連邦首相候補となり,選挙の結果 SPD との連立政権の下ながら初の女性連邦首相となった。シュトイバーには経済関係特別大臣のポストが用意されたが,彼はさんざん迷ったあげくにそれを断り,居心地のよいバイエルン州首相を続投する道を選んだ。

メルケル連邦首相は今のところ内政も外交も無難にこなしており,そのおかげで CDU-CSU + SPD の大連立も予想以上によく機能しているようである。悪気ではないが人の足を引っ張るくせのあるシュトイバーが入閣してくれなくてよかったと,メルケルは今では思っているかもしれない。シュトイバーはもう13年も党首の座にあってバイエルンに君臨したが,まだ政治的野心は満たされていないらしく,2008年の CSU 党首改選にまた立候補し,2012年の任期いっぱい務めると宣言した。これには CSU 党内で賛否両論が巻き起こり,結党以来の危機的状態になったと報じられた。

シュトイバーは自分のプランを変えるつもりはなさそうだったが,先日とつぜん,自分は2008年で党首の座を降りると宣言し,後継者まで提案した。あるいはすべては後継者を効果的に指名するためのお芝居だったかもしれない。若手の党員のあいだでは,バイエルン式密室政治はもうたくさんという空気もあるようで,党首は党員による直接選挙で決めようという声も上がった。

メルケルとシュトイバー ――どちらも勝ち組だが,ちょっとした運命のいたずらで勝ち組同士でも微妙に差がつく。でも勝負はまだわからない。これが政党政治の見所であろうか。